レストルーム/山中 烏流
 

それは腕でした

ベッドは空を飛ぶいきものになったので
わたしのライフカードからは
にんげんが外れました


それは腕でした

ブランケットの内でまどろむわたしを抱き
耳を塞いで
窓を越えました





彼はいきものです
わたしもいきものなので
来年の今頃には
いきものが生まれます


這い出してくる腕(へり)や脚(はしら)に唇を咬んでも
空が白み行くことに変わりはないので
これから、の話をすることは
既に
意味がありません





それは腕でした

やがて、たどり着いた水面で
わたしの唇を濡らしながら
緩やかに掻き出しました


それは腕でした

戻すものも無くした背を撫でながら
合わさる呼吸の果てに
瞼に糸を渡しました










眠るわたしの傍らに

空が、近づいてきます






戻る   Point(3)