つくりものめいた、花/石川敬大
野に咲いていた
赤い花を
むしんにむしっていた娘に
わたしは言った
かわいそう
花さん、いたいいたい
白い花さん、いたいいたい
赤い花さんも、いたいいたい
つくりものめいた
わたしの声
わたしの言い方
花の痛さなんてわたしは知らないし
知ろうなんて
おもったこともない
娘は
おはな、むちると、いたいいたい
立ちあがると
にっこりわたしにほほえんだ
娘は
つんだ花を道に捨てた
夕陽にむかって
わたしは娘と
手をつないで家路についた
ふたりが歩いてきた道に
赤い花びらが
点々と散っていた
つくりものめいた
わたしの夢
ほんとかどうかわからない
わたしの記憶
娘を
しんそこ愛しくおもったのは
いつまでだったろう
※川上弘美『真鶴』より部分引用しました
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