年寄りの住む村/見崎 光
 

少々の休みも後回しに
相棒に乗り込んで家を後にする
大半が年寄りのこの村を整えるため
朝陽を背に走り続けるのだ

この村には年寄りしかいない
春から秋にかけ知恵を借り
北国特有の長い冬に恩を返し暮らす男たちは
年寄りの手に余るほどの雪をトラクターに乗せて
地から川へ運び自然へ還し
春の息吹が1軒も遅れることなくやってくるように
先代より受け継がれし知恵を施して漸く仕事を終えた
背に注がれていた陽の温もりはすでに頭上高く在る
助け合いで活かされている素朴で温かい村に
留まる若者は少ないけれど
親父の背中から息子の背中へ引き継がれる様を
今年も朝陽は見つけたようだ

雪がこんこんと降り続いた次の日は
まだ夜が明け切らない早朝から
トラクターのエンジン音がまた
大地に心に響き渡るだろう
“あと何年”指折り数えながら


戻る   Point(8)