銀の指輪 /服部 剛
 
昨夜も妻は寂しがり屋な夫の手を 
両手で包み 
その指の温もりはすでに 
この不器用な手をゆるしていた・・・ 

翌日、結婚してから初めて、傷心の街を歩いた。 
もうだいぶ昔の春に砕け散った物語なのに 
何故か心の何処かでずっと、引きずっていた  

この街を歩けば、ふとした駅の階段にも 
あの日に理由(わけ)もなく恋に落ちた 
天使の面影は、なまなましくも蘇る。 

久しぶりに傷心の街を歩いて、今日わかった。 
長い季節の巡った今、ようやく・・・ 
あの日の天使を「好きだった」と言える自分に 

(そうして僕は左手に光る、銀の指輪を撫でるのだ・・・) 

ふと見上げた 
桜並木はすでに 
花吹雪を終えて 
葉桜のみどりを揺らす 
風の手のひらが、この頬を撫でていった 







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