音楽界の夢 /服部 剛
私の脳内で指揮者は独り、無人の観客席
の闇に向かって、手にした棒を振ってい
ます。青く浮き出た血管の手がくるり、
棒を一振りすれば、観客席の暗闇に、幼
年期の幸福のしゃぼんが一つ、二振りす
れば、思春期に砕けた哀しみのしゃぼん
が一つ・・・薄っすらと浮かんで視える
観客席の鰯等は、ぽかんと口を空けなが
ら頭上を仰いでいます。無限の色のしゃ
ぼん等は、闇の間に間にたゆたいながら、
ぶらっくほーるの彼方の口へ・・・緩や
かな速度で、吸い込まれて往くのです。
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