叔父の一生/見崎 光
津軽の地に生まれし者
幼少を経て、その地を後にした
夢と呼ぶにはお粗末な信念を
青年はひたすらに貫いて
意地という名の包丁片手に
立派な板前となり
同時に半人前な父親にもなった
じょっぱり魂が幸を成す
中年は出世をしたが傲ることなく
良き仲間と後輩に恵まれた
“食”に触れる世界で
肩書きに酔う者滅ぶ
その身で覚えた厳しい教訓で
笑って過ごせる今を誇らしげに話す
津軽に生まれし者
再び故郷の地を踏んだ
その体に巣くう末期の癌と共に
余命半年
下された人生行路
「苦しまず
お釈迦様の様に笑って逝きたい」
そんな話しをぽつりとして
桜に酔うのだと指を織る
春の日和
輝かんばかりに煌めいて
暖かな陽気包む頃
津軽に生まれし者
故郷の地に還る
享年五十一歳
桜は…まだまだ遠い
半年の行路を捨て
長旅に出掛けていった男は
本当に“お釈迦様”の様に優しい顔をしていた
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