首の無い人 /服部 剛
原爆が、長崎の教会の前に立つ
マリア像の首を、吹き飛ばした。
ミサイルで、バーミヤンの崖に身を隠す
大仏の顔が、砕け散った。
暴力の手に
顔の消えた後も
マリア像と大仏は遠く離れた空の下
それぞれに長い間、立っている
いつか栄えた文明の
誰一人いない廃墟の街の風景が
夕陽の色に染まる頃
一枚の絵画の奥から
遠い昔の賑わいは異国の風に甦り
旅人の耳に夢を囁く
マリア像
大仏
たった一人の人間
暗闇にぽつんと浮く青い惑星(ほし)
恐ろしい炎の手に滅び去っても
消えぬもの・・・
人間がいつか肉体(からだ)を脱いでも
残るもの・・・
夜になると
旅人の前にふっと、現れる
まぼろしの像
沈黙を語る、首の無い人
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