今を登る /服部 剛
 
いのちの綱を両手で握り、彼は崖を登る。 
時に静かな装いで彼は足場に佇む。ふいに
見下ろす下界の村はもう、生(なま)の地図になっ
ていた(少年の日「夢」という文字を刻ん 
だ丸石が背後のリュックにずしり、と重い) 

今日もいのちの綱を両手で握る彼はもう、  
下界を見下ろさないだろう。いつか辿り着
く山頂に置いた丸石が天の太陽(ひ)に照らされ
る日を夢見て・・・彼は「今」を登ってゆ
く。足下の岩の一つひとつを、踏みしめて。 







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