【批評祭参加作品】近代詩へのリンク ー富永太郎試論ー/石川敬大
 
 富永太郎という詩人を知ったのは、わたしが詩を書き始め、相前後して中原中也を知った時期とパラレルな関係にある。実際、中也がその生地に記念館ができるほど人口に膾炙されることがなかったなら富永は、おそらく多くの無名詩人群のなかに埋没していただろう。なぜなら生前に一冊の詩集もなく、中也が寄稿し、小林秀雄が同人として属していた詩誌『山繭』に、八篇の詩を発表したのが生前のすべてであってみれば、たとえ同窓(一級下)で、フランス近代詩を分母にともに苦悩を味わった小林や、七歳年少で、彼に家庭教師として仏語を習い、戦後作家への道を歩み始める大岡昇平の後押しがあったとしても、それは回避できなかっただろう。友人の正岡忠
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