言の樹/村上 和
 
言葉は生まれてすぐに
手を離れる
誰からも必要とされないなら
母としては少し哀しい



私はキャッチボールが下手だ
投げる言葉が見当たらない
昔父がキャッチャーみたいに腰を落として
じっと待っていた姿を思い出す



私と言葉は
例えるなら空と雲
無口な空もあるけれど
雲がなくても空は空



さよならを言うと
白い息がふわりと浮かんだ
掴もうとして掴めずに
雲みたいだねと君が笑った



触れられない葉を持つ樹ってな〜んだ
そのなぞなぞは
まだ解けないままで
手に残っている
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