尾根歩き/蒲生万寿
まだ春が来ない山
夜が明けた静かな土を霜が押し上げる
傍らで小鳥が動き始め
冬枯れの落ち葉をひっくり返す
左手は日の光に溢れ
右手は陰に沈み黙す
私はその中の尾根を行く
歩き出してそこそこの時が経った
いくつかの頂上を越えて行き
取り立てて言うべきこともないところを目指し
先へと向かう
汗ばむ体に荒い息
されど私と辺りとは何ら隔てもなく
矛盾もないように思え
面白い
土、足、体、頭、空気、空
一連のつながり
常緑の葉、枯れ木立、衣擦れの音、木漏れ日
私は知る
それは何時でも共にあるものばかり
戻る 編 削 Point(1)