タタミのうえの椿ふたつ/石川敬大
 



 仏間に坐って
 うなだれ
 首を
 さしだしていたことがある


 白刃の前に


 ながれる水音に
 耳を澄ませていたことがある


 客観的なまでに静まったこころで


 なめこ塀の内側で
 椿が
 ふたつ
 タタミのうえにころがっていた

     *

 かれが
 当然のように
 うけいれたのは、すでに
 仏の心持ちになっていたせいだろうか

 座敷から廊下へと幽鬼のようにさまよいでてゆく
 衣擦れの音をきいた
 あたらしい血のにおいが染みついた
 袴姿の
 男の背中をみた

 
   *

 あのとき
 塀のうえにひろがっていた
 青空は
 きょうの青空
 と
 同じ色だったのだろうか

 庭のほうでまた
 椿が
 落ちた

 かれの目に
 白い雲が湧いて、きえた





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