タタミのうえの椿ふたつ/石川敬大
仏間に坐って
うなだれ
首を
さしだしていたことがある
白刃の前に
ながれる水音に
耳を澄ませていたことがある
客観的なまでに静まったこころで
なめこ塀の内側で
椿が
ふたつ
タタミのうえにころがっていた
*
かれが
当然のように
うけいれたのは、すでに
仏の心持ちになっていたせいだろうか
座敷から廊下へと幽鬼のようにさまよいでてゆく
衣擦れの音をきいた
あたらしい血のにおいが染みついた
袴姿の
男の背中をみた
*
あのとき
塀のうえにひろがっていた
青空は
きょうの青空
と
同じ色だったのだろうか
庭のほうでまた
椿が
落ちた
かれの目に
白い雲が湧いて、きえた
戻る 編 削 Point(23)