潮の岬  2011/たま
 
、その先は海と太陽しか見
えない岬の火祭り。日没の合図とともに人びと
は乾ききった丘陵に火矢を放つ。
とおく南の地平から風はやってくる。放たれた
火は幾重もの輪をつくりやがて波のようにしず
かに押し寄せる。


火を放てば季節はやってくる。それは未来と交
わした約束を忘れないための遊びなのに。
深い闇の岸辺で老いることばかりを気にしてい
る。もうすぐ迎える六十代。
それはあなたもおなじはずなのに。今を生きる
勇気を見失ったわたしにはその遊びさえ恐いの
です。

ここがわたしの終の棲家だからもう恐いものな
んてなにもないのよ。
ここが未来なの。今日と明日しかないの。
ただそれだけよ。今を生きる勇気ってそんなも
のだと思うの。

あなたは手にしたカメラを火炎の海に向けて、
ゆっくりシャッターを切った。

火矢を放つように。

とおい眼差しで。





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