鶏の香り/たちばなまこと
野生の鶏が森に溶ける朝
立ちのぼる夜の残り香
白く踊る靄
女たちのはごろもの袖が
空に還るよう
斜めに抜ける鉄道の跡地に
芽吹く春を見守っている
私の肩に麦をふりかける人よ
瞳は黄金を映す
スライドする営みに魅入ることが
必然なら
ひとりなら
立ち続けられない揺れ
眠りの代償
石灰にまみれたグラウンド
荒れ地を切り開いた祖父の
満面の笑みが後光を背負い
惑う獣に慈悲
渇いた喉とはうらはらな
涙を流す
最中(さなか)
いくつもの余波がわき腹を通り過ぎてゆく
空につきぬける視界に鶏の絵のギャラリー
仏の表情(かお)を浮かべる蛙よ
甘い香りを引き連れた緑風よ
無垢な預言者よ
あなたたちの声をもらえるのなら私が
雲を渡る春になる
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