涙の遺言 ー野村英夫への手紙ー /服部 剛
 
黄昏の陽は降りそそぎ 
無数の葉群が煌々(きらきら)踊る 
避暑地の村で 
透きとほった風は吹き抜け 

木々の囁く歌に囲まれ  
立ち尽くす彼は 
いつも、夢に視ていた 

哀しみに潤んだ瞳の少女と肩を並べて坐り 
草原の歌に耳を澄ます、一枚の風景画を・・・ 

彼の夢は、叶わなかった 
友の見舞った病室で 
彼の痩せこけた頬に流れた 
ひとすじの、涙 

(もっと生きたい・・・) 

羊の面影を遺して彼は 
夜の牧場の出口から 
永遠(とわ)に旅立っていった 

  * 

七十年後 
この詩を書いている僕の前に 
在りし日の彼
[次のページ]
戻る   Point(5)