高級弁当という収穫/光井 新
言って、渡されたグラスの中身をぐぃと飲み干した。グラスが空になると、透かさずM氏は私のグラスにまた酒を注いだ。そして私はまたぐぃと飲み干す。それを、私が飲み始めた時には七分位入っていた瓶が、空になるまで繰り返した。
それから私達は、仕事の話をした。この食事の席も、元々は、リラックスしながら仕事の打ち合わせの様な話をする為に、M氏が設けてくれた場であった。その仕事というのが、M氏の勤める某出版社の或る雑誌に、私がイラストを描くというものなのだが、私にはまるで自信が無かった。私は、美大でちゃんと勉強をした経験も無ければ、賞を貰って世間に通用する評価を受けた事も無かった。自分の仕事に自信が持てない私は、具体的にどの様なイラストを描けば良いのか訊ねて、言われるままに仕事をしようと企んでいた。しかしM氏は、「あなた自身の良いと思うイラストを自由に描いて来てください」としか言わなかった。かなり酔って思考能力も低下していた私は、兎に角M氏に嫌われたくない一心で、「そうですよねー」と言って、そしてグラスで口を塞いだ。
その後の事は覚えていない。
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