真夜中に犬の声がかけてゆく
やっと帰宅した息子と
息子の帰宅を待っていた家内が
ダイニング・テーブルではなしをしている
声が
ボソボソきこえる
テレビの音はすでになく
家は
寝しずまった
真夜中の腹の奥に沈みこんでいる
早朝に家を出て真夜中に帰宅する息子と
いつも待っている家内と
電灯の下で
むかいあわせに座っている
姿が
俯瞰でみえる
沈みこんだ家のなかでも耳は眠らない
なにも入っていないレジ袋が
天井ちかくを浮遊する
それが、ぼくだ
ボソボソの声が
夢のなかまで追ってくる
はなしというのは
ぼくが死んだあとのこと
軽い調子の、現実的なはなし
女は、男みたいに絵空事のはなしはしないもの
布団で寝ている、ぼく
浮遊しているレジ袋の、ぼく
ふわふわと頼りない
どっちも、ぼくであるにちがいない
沈みこんだ家のなか
犬は
真夜中に棲むものに怯え
わずかな物音にさえ
耳をそばだてる