朝/光井 新
 
 雀の鳴き声が聞こえた――と思うと、チュンチュンと云うその音は、何時の間にやら、ポタポタ……と、光る滴と成って、暗闇に在る深淵の静かな表面へと、吸い込まれる様に落ちて行った。円い波紋が立ち、幾重もの輪が内から外へと広がって行く。と、同時に、端から中心へ向けて眩しい白が集束を始める――その刹那、眼球の奥に彫刻刀が突き立てられる! 視界は赤く染まり、オハヨウ、と瞼が挨拶をする。

     *

 ぼんやりと光る白いカーテンが揺れている。どうやら一足先に眼を覚ました恋人が、ベランダへ出て煙草を吸っているらしい。まるで空へ向かって投げキッスをしているかの様な、淡いシルエットを朝陽が映し出していた
[次のページ]
戻る   Point(1)