君の歌/なかがわひろか
歌をうまく歌えなくなったら
僕は喉をかっきった
おかげで声はまったくでなくなったけど
下手な歌を歌うくらいなら
よっぽどまし
声を出せなくなった僕の代わりに
君は鼻歌を口ずさむようになった
今まで一度も歌ったことはなかったけど
思ったよりもいい声で
君は歌う
やがて僕たちは何も話さなくなり
君はいつも僕の傍で
鼻歌を歌う
どこの国のか分からない言葉で
誰の曲が分からない音程で
そのうちは僕は小さな涙を
ほんの一粒だけ零した
たった一粒なので
君はそのことに気がつかない
僕は今の気持ちを
君に伝えようにしたけれど
君はあまりに機嫌よう歌うから
僕は黙って聴いている
(「君の歌」)
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