まもるもののない空から
かれの顔や肩に雨がおちてきて
夕ぐれが
せまっていた
きょう
という日は
くぐりぬけねばならない試練のような
分厚い曇天の一日だった
かれが両腕をひろげて防いでいたもの
抱きとろうとしていたもの
それは
だれがどう挑んでも
とめられない勢いの、つよくて激しいものだけれど
どんな顔をして待つかは
じつは大事な問題だったりする
*
かれの顔に雨が落ちてきた
江戸の驟雨だった
いや、女の涙だった
かれは白いベッドに横たわり
虫の息だった
かれの顔をのぞきこんでいた女は願っていたのだ
泣きながら
祈っていたのだ
ながい夢をみていた
かれは
江戸にもどりたいとおもった
きょう
という日は
くぐりぬけねばならない試練のような
分厚い曇天の一日だった
まもるもののない空から
かれの顔や肩に雨がおちてきて
夕ぐれが
せまっていた