改札/錯春
私の小銭はいくら集めてもなくならなかった
いつまでもいつまでもポケットの暗闇から
いつまでもいつまでも沸き出でて
まるで
どこまでもどこまでも逃げろと
いつまでもいつまでも逃げろと
急き立てられているようだった
轟音の中
あれは、轟音だった、そう、騒音
私は耳を塞いで 娘の耳を塞いで
手指の湿疹が疼くのを堪えながら
血が通った残酷な音の中を
恐れながらも進むしかなかった
ふと、
うつむくと
私に娘などいなかった
止め処ない音の群れ
私は涙が 眼から 鼻から
滴り落ちるのを感じた
裸足の踵はヒビ割れて
膿が路上に零れ出た
肩が震える度に
ポケットの小銭が鳴る
ここも
どこも
私の場所ではない
娘は いない
どこかに辿り着く切符が
切符が欲しい
私の息だけ白かった
誰も
だぁれも 気付かなかった。
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