おせち/salco
 
生じようがなかったのだ。男は夫なりに我慢し、女は妻な
りに苦しみ、いつしか限界を超えたというだけで、共生はどちらかが忍
従に徹すれば上手く行くものではなく、また妥協し合えば長続きすると
いうものでもない。生活という不可抗力は相性も人格も変えて行く。殊
に夫婦などという、安直な相互依存に基づく人間関係に於いては彼我や
利害の線引きも曖昧になる。おのれを律し徹せる人間の方が少ないに違
いない。

 さておせちとは言え無論、本式の物ではない。父なりの行事料理とし
てイメージされたそのメイン・ディッシュは、分厚いロースハムに缶詰
のパインを寒天寄せにした半ば洋風の妙なもので(ゼリー寄せ
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