おせち/salco
いた。
当時の母が作れたのは豚ロースのソテーぐらいで、それが野菜炒めと
共に空中を飛んで冷蔵庫の扉に貼り付く、なんて事も実際あったのだ。
毎日出されれば、いずれ星一徹に変身せねばならないほどそれは父にと
ってストレスフルなメニューだったろう。概してそれしか知らぬ子供達
と違い、経験的に食物のヴァリエーションを知る大人には耐え難いに違
いない。
してみると一概に無知は恥とは言えず、「博識」の成人男子が妻帯し、
家政上の怠慢を許し難いものとしてこのような挙に及ぶのであれば、枢
要なのは知識より寧ろそこから導き出すべき哲学なのだろう。たかが食
い物、脱糞素材に色を問うアホらしさ。
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