悲しい遺跡/天野茂典
 
廃墟に紅葉が溜まっている、捨てられてもう何年がたつのだろう。窓も壁も風雨にさらされて、朽ち果てている。草も枯れかかって、陽を浴びている。兎も、狐も、狸も、熊も、ここを宿にしたに違いない。獣の匂いがするからだ。光の中でそこだけが、時代の水車を回している。吸い上げられてゆく清流のあわ立ち。ピサの斜塔のようにいつくづれても不思議はない。農家から遠く離れて。野菜も育てられた後がない。熊うちの猟師も休むことはしないだろう。山のなかに捨てられた廃車のように、みるもののこころを荒ませた。街道は近い。ぼろぼろ毀れた紅葉の葉っぱが零落の烙印を押している。もうだれもかえりみない。あえていえば廃墟にヌードはよく似合う。
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