大宰府にて/soft_machine
 
つのを忘れさせました。
もう40年も昔の元旦に、母親はここで初点をしたそうです。その頃は、まだ奥山の岩肌が露で、木々もやはり小振りで、芍薬もまばらで苔も今よりは浅かったそうです。その青春の中で、時間の流れる力強さは、庭を豊かにし、母親の顔に幾筋も皺を描きました。
 見れば母親は何を思ったのか声も立てず泪を流していました。出鱈目な僕なりにでしかありませんが、大切にしよう。そう思います。
 雨がやんで、梢の雫がビーズのように反射していました。
「すっごくいいお寺やね。」
「でしょう?また、若葉の頃に来ようね。」
「うん、きっと。」
 買われてからずっと母親の掌でくるくる回っていたうちわが、乾いて波打っていました。
「厄よけに。」と言って母親が扇いでくれたので、お返しに「福呼びに。」と扇いであげました。
 ぎっしりあった車もすっかり減った駐車場に着くと、太陽が雲の上で中天を過ぎる時刻。
 遠く背振の頂きに、一際鮮やかな陽光が落ちていました。




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