暁闇/楽恵
 


家は深く埋まるように石灰岩の石垣に囲まれている
来襲する猛烈な台風から屋敷を守るため頑丈な
けれどその石垣を越え いや崩しながら
夜な夜な犯しにやってくる 
波がある
生け贄を求めるように
寝ている私の体に許しも得ず覆いかぶさり
鼻と口を押さえて窒息させ
抗えない水圧で部屋を満たしたあと
気の遠くなる感覚を静かに離れていく
さらに遠い場所まで
波が
石垣の外へ去ったあと
時間を確かめようと枕もとの時計を引き寄せる
時計の盤に針はない
滲みながら何も動いていない
すっぽり喉奥まで飲み込んでいた息が
渦を巻きながら潮を引かせゆっくりと流れ去っていくところを

[次のページ]
戻る   Point(6)