キリにわけ入る/石川敬大
 



 冬のあま雲に
 のぼってゆくように
 クルマで雲に
 わけ入っていった

 国道の
 あま雲のなかは
 濃いキリが視界をさえぎる世界で
 アスファルトに刻まれたセンターライン
 ガードレール
 ふいの標識
 折り重なった樹々の影
  ―― それだけの
 峠道から
 真綿のなかに坐りこんだ岩石の民家が点在する
 幽玄の世界があった

 キリは
 わからないくらい
 ゆっくり、動いていた
 ゆっくり、と、うごく、その
 平時ではないことが
 ぶきみだった
 いたたまれないおもいがきゅうに胸にこみあげてきて
 理由もわからず
 ぼくはふあんになった

 キリは
 ひとのように生きている
 い・き・て・い・る、イ・キ・テ・イ・ル
  ―― そうおもった
 だがいずれにしも
 石や
 雲母
 化石や
 山塊みたいには
 ここにながくとどまれない
 かぎりなく儚いものたちだった





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