詩を読む5/地獄のペチカ
れてしまった声を「僕」は再び探そうとする。群衆の中、その声は見当たらない。
「ぼく」は規範から外れている、と信じている。社会的意味などはない、と信じている。無価値であること。だが、「ぼく」が持ちうる意味は決して消されようとするものではない。「ぼく」は恨むべき両親を知り、社会も知っている。
「ぼく」は部屋に閉じこもる。閉められたドアの向こうには、テレビの音がしている。「ぼく」は装うことを知っている。ドアを開けば、「ぼく」を跳ね除ける社会がある。「ぼく」を産んだ両親がいる。「大嫌い」な「石原慎太郎」がいる。それでも、「ぼく」はその扉を開けるだろう。「ぼく」は欲している。だがそれは欲してはいけないものだ。「ぼく」にはまだそれがわからない。そして、ドアの向こうの脅威を敵対することしかできない。
愛とは愛し愛されたことをその瞬間から忘れ去ることを意味している。
愛したものが去っていくことを愛するのだ。
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