そこらへんにいる女/
錯春
その女は
目も耳も鼻も利く
しかし
見たことにも
聞いたことにも
嗅いだことにも
関心がなかった。
女の背後では物取りの手が蠢き
耳朶には猥雑な言葉の羅列
周囲をケバケバシイ臭いが覆い
女はいつも ひとり
女はいつも 騒々しかった。
「死んだような顔で味噌汁が沸騰しています」
女はひとり たったの ひとり
それでも生きていた
今まで 生きたことしかなかったので
死に方がわからなかった。
飯を炊き、
汁を炊き、 菜っ
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