遠雷/天野茂典
したたる、鱗粉。新潟中越、たてゆれに蝶は砕け、飛べなくなった。首。静止
できなかった電源、もろかった、緊急対策。飛べなくなって、脱線した車両。
震源地に近く、鱗粉は舞い上がり、蒼くきらめく死者たちの差延。新幹線のあ
かりが寒い。匂いたって来る災害現場の台所、蝶の死骸。ガラス、木材、屋
根、瓦、生中継のアナウンサーの胃。避難した10万人の不在証明。蝶を鉈で
裂いている日本列島。火山を越えて、羽は飛べない。雪国の赤い鱗粉・・・・
救助された親子もいるのだ、死傷者が出なかった奇跡の事故もあるのだ。もう
すぐ新潟。もうすぐ長岡。飲んだくれて青森までゆこうと這いつくばって、か
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)