かわりんぼう/……とある蛙
違う
口を横に開き、ニッとする。
この子の一日は窓から眺める景色から始まる。
どんな景色かってのは
彼自身が見つめている対象によって異なる。
つまり、毎朝彼は違う景色を眺めているのだ。
彼は虫を見つめる。
漠然とした虫ではない。
虫の顔を見つめているのだ。
その虫は愚連隊のような顔をしていて
彼に因縁をつけようとしている
そこで彼は虫を殺しにかかるのだ。
窓の外の虫が
何処ぞに消えて行くまで彼は睨みつける
一頻り虫を睨んだ後
口を横に開き、ニッととする。
彼の髪は風のない室内なのに
何かにそよいでいる。
その空気はモスグリーンの煙だ。
彼はまたニッとする。
彼はまたニッとする。
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