雲の箱舟/服部 剛
いつものようにキスをして
電車に乗った君の
窓越しの笑顔に、手をあげて
一人になった休日の僕は
駅ビル内の喫茶店で
朝食のパンをかじりながら
ふいに
自らを漂う雲と思う
35年間両親と過ごした
鎌倉の実家を離れて
はや3ヶ月
あまりにも不思議な必然の
1ピースとして僕は
君と暮らす部屋にぴったり嵌(はま)って
本を読んですわる
座布団の下に
根を、生やしている
詩人なんぞを志す僕より
稼ぎのいい君が
都内でせっせと働く頃
部屋に戻って
ベッドに引っくり返った僕はいつしか
ふたりを乗せた
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