海嘯/天野茂典
 
 



  やってきたそれは
  葛飾北斎の波のようにうつくしくはなく
  濁って
  ドーン
  ドーン
  扇のように覆いながら人家を飲んだ
  人をさらった
  北陸海岸
  壊滅した村落
  断絶した一家
  よだ、だった
  助けて、くれ
  泥海の破壊された屋根の下から声がきこえた
  電燈はもちろん提灯もなかった
  死者は腐乱して散乱していた
  青い光が走った
  沖合いで閃光が瞬いた
  港の潮が1000kmも沖合いに引き
  海底が露出した
  純度の高い井戸水が濁りやがて渇水した
  前兆はあった
  リアス式海岸の入り組
[次のページ]
戻る   Point(1)