海嘯/天野茂典
やってきたそれは
葛飾北斎の波のようにうつくしくはなく
濁って
ドーン
ドーン
扇のように覆いながら人家を飲んだ
人をさらった
北陸海岸
壊滅した村落
断絶した一家
よだ、だった
助けて、くれ
泥海の破壊された屋根の下から声がきこえた
電燈はもちろん提灯もなかった
死者は腐乱して散乱していた
青い光が走った
沖合いで閃光が瞬いた
港の潮が1000kmも沖合いに引き
海底が露出した
純度の高い井戸水が濁りやがて渇水した
前兆はあった
リアス式海岸の入り組
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