詩を読む5/地獄のペチカ
 
消す。道を行く人の足が無数に見える。どこへ向かうのだろう。かつての「セイネン」は今別れたばかりの女の肉の柔らかさを思う。下を向き歩く男とすれ違う。視線を上げる。同じ瞬間、その男の頭も持ち上がる。眼があう。気まずそうに互いに視線を外す。かつての「セイネン」は駅へ。その男は繁華街へと歩く。二人の距離は離れていく。時間が進む限り、離れていくだろう。

 「僕」は語らない。語った言葉もまた、何も語らない。ポケットに手を突っ込み、小銭を探している。今日、一晩一緒に寝てくれる女も探している。あらゆる出来事は可能性から確定され出来事になる。だが今や「僕」は確定された出来事だけしか必要ではなかった。「僕」は消えてなくなってしまいそうな感覚に襲われる。それは、「僕」が「言い含めた」「いつしか虚ろなものになる言葉たち」のせいに決まっている。意味の重荷が「僕」を小さな一つのシミにしてしまおうとしている。

 
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