This Love Is Not Wrong/捨て彦
 
た後頭部を撫でながら聞くと、陽子さんはサンクスの袋に入った卵サンドをかじりながら「あるよ」と一言だけ言って僕の顔の前にナイフを突きつけてきた。ナイフはいつも手入れしてあるのか、サビたところが一つもなく夕日を反射して鋭利に光っている。
そのナイフ、いつも持ってるけど、それって買ったの?と聞くと、家にあったという。それ以上のエピソードには膨らみがないので聞くのはやめた。もう一度えんぴつで刺された腕を見てみると、芯が皮膚の奥で黒くにじんでいた。
僕は陽子さんの顔を盗み見た。まともに見るとまた陽子さんが怒るからだ。でも、見ていないときでも、怒られることは多い。
「手が汚れた」
と言って、僕の目の前
[次のページ]
戻る   Point(1)