蝶の刺青/豊島ケイトウ
 
目覚めると真っ先に君の二の腕を求めた内側から蝶の刺青を浮かび上がらせるそれを僕はどうして失ってしまったのかほとんど無自覚のまま

本当に美しい言葉は永遠でも真実でも物語でもなくあなたの唇が開いたときに見える、私の鼓膜に届く前に知れる、勇気のようなものかもしれないそんなふうに君は結論づけた
確かにそのとおりだった僕は勇気を失いそれからすべてがゆるやかな瓦解のかたちを描きはじめたのだまるで筆を握ることさえできず安ホテルに逗留しつづける画家のように
(ある瞬間目覚めたものがある瞬間目をつむる堂々めぐりから僕が学び得たたった一つのアイデンティティーを旅行鞄に詰めたのはまぎれもない事実だ)
君はた
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