公園/桐谷隼斗
 
噴水のきらめきも届かない
少女の視線が
かなしみの残骸を抱えた
背中を追いかけている
ことばではない
しかしことばがそうさせる
愛もまた
主語のないひとつ欺瞞
うつむいた少女の
視線の先に
〈死〉を運ぶ蟻がいて
その瞬間あふれた
少女は穴の中に消えていた
間違ってはいない
春の香りだけが
女のような川のゆらめきを
あたえる
感覚ではない
本能がそうさせるのだ
その瞬間少女は
右足を踏み出し
蟻を踏み潰してしまうだろう
信号を知覚することを
忘れてしまうだろう
〈わたし〉を忘れてしまうだろう
光だ
愛のにおいを
たぐり寄せながら
前へ
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