まどさんの夢 /服部 剛
その夜の舞台で歌手が
「ぞうさん」を唄った時
観客様は皆、懐かしそうに
うっとり微笑みを浮かべるのでした
途中出演のチベット人が
故郷の山々を唄った時
タイムスリップした観客様の脳裏には
翼を広げた鳥が大空を舞うのでした
カウンターに立つ三脚の上で
黒いレンズを光らせるカメラは、じっと
それらの現象を、観つめるのでした
少し優しい気持になった僕は
久々に会う仲間等への
「また、杯を交そう」
という言葉を胸にしまい
演奏と唄の続く会場を後に
地上への階段を上り
親しい仲間等のいる
次の場所へ向かった
101歳のまどさんは今頃
日本の何処かの老人ホームで
桜の花開く瞬間を
夢に観ていることでしょう
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