中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
。私は王女と両手を繋ぎ合い、彼女の前に一歩踏み出ると、外界から降り注ぐ初夏の太陽の光が、私の体が壁に成って、彼女の淡い黄色のドレスにかからなくなり、やがて彼女の顔にも影が射した。すると王女は反射的に視線を私から逸らし、私の両手から手を解き、玉座の方へ駆け出した。
「空に浮かぶ、無数の白い雲が此の巨城から遠ざかって行きますね」
「えぇ。私も貴方様が御出でになる前、其の窓辺からずっと空の雲を見て居ました」
王女は私に背を向けたまま、躊躇いがちにそう答えた。
「私達は空を見上げる時、本当は、此の世界があれ等の雲達を置き去りにして回っている事に気が付きにくいものです」
「私の老いだけが此の
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