中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
べ、私の胸に右頬を押し当て、とても静かに泣き始めた。
「王女……」
 私は王女を抱き締め、瞼を暫く瞑った後、首を下に曲げ、彼女と見つめ合うと、口づけを交わした。私は王女の悲しい表情で胸が一杯と成り、永遠という存在に絶望し、胸が苦しく成った。再び王女を抱き締めると、下の礼拝堂のパイプオルガンが新しく、もの悲しいバロック音楽の唄を歌い始めた。私は再び瞼を瞑り、彼に対して、王女以外の者に今まで一度も見せた事の無い涙を流した。王女は、私の鼻を啜る音が聞こえても、決して私の顔を見上げる事は無かった。
「…また、次の土曜日まで逢えないですね……」
 王女は私が瞼の裏の深い暗闇の照度に慣れ始めた頃、私の
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