中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
、正門の左の扉を開け、もう一度王女の切なさに溢れた表情を見つめると、あとは振り向く事はせずに、空気に暗闇が滲んだ様な外界に出て、駆け足で森を出た。此の日を最後に、毎週土曜日に王女の住む、白亜の巨城は此の森に姿を現す事は無くなった。

   二 三十歳

 私は此の五年でケアマネージャーと成り、詩集を二冊出した。相変わらず売れ行きは芳しくなかったが、私は私の作品が此の世に出、少なからずも人々に読んで頂いている感謝の念を忘れずに、日々詩作に没頭していた。土曜日に白亜の巨城が現れる、あの森には五年前から毎週の様に訪れていたが、幻がみる夢の様に、あたかも其れが土曜日だけだったにしろ、存在しなくなっ
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