光満ちる村 / ****'04/小野 一縷
光満ちる波打ち際に
子供達のふざけ合う声が跳ね返っている
紫陽花がつづく坂道を振り返れば また眩しい
海の上を白金の波が幾重にも走る
潮臭い湿った日影で 老人たちは
灰色に窪んだ眼で 静かに網を紡いでいる
カモメたちが岸壁を白く糞まみれにして随分と経つ
堤防で干乾びた釣餌を啄ばむカラスの眼が反転する
砂浜で女たちが海藻を干している
時折の高い波が一際 銀に輝く
帰ってこなかった船が また一隻
蜃気楼の中に現れては 滲んで消える
彼女たちに 気付かれないまま
傾いた釣具屋の看板を過ぎて
人知れず この村の一番高い場所に着く
潮風が吹き上げる ここは世界で一番魚臭い墓地
誰も死にたがらない 老人たちは余計死なない
自殺した者はすぐ忘れられる
帰ってこなかった人は永遠に愛される
真昼
良い天気だ
なんて空は青いんだろう
なんて海の輝きだろう
あの島はなんていう名だったろうか
ああ 清々しい
死ぬには絶好の気分
死ぬには絶好の日和
死ぬには絶好の我が故郷
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