ヴェルビューより / ****'04/小野 一縷
手に 頬に 額に 冷たい 波 飛沫
その波間を越える手際の良さが酔いの漕ぎ手には求められる
「Kさん、以前は何のお仕事を?」
「船乗りですよ。今も、こうしている間も。」
波越のしくじり 転覆 不明
自我は忘れられることに酷く脅える
脂汗を 涙を 嗚咽を 小便を 漏らし 抵抗する
それらを根こそぎ押し流す分厚い悪寒の津波
悲劇 その凄まじく おぞましい寒気も
また楽しめるだけの耐性が この体には根付いている
甘美な蜜で 血肉を 極限まで 狂おしく育んだから
波の あと 静か
眩暈による色彩変調の終わった カンバスには
1ミクロンの 黒点すら 無い
白い砂浜 白い海 白い空が 描かれて
−真白のカーテンが揺れる風の静かな場所が好きだ−
整然とした白の基調 むしろ 白以外不自然な ここへ
望むべくして 冬に
「Kさんは、その窓からいつも何を見つめているんですか?」
「ええ、この眼と外の狭間にあるガラスを見ています。」
最近では廃人の振りが 随分と上手くなった
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