飛行訓練/木葉 揺
 
うち頭の後ろから 鹿が次々と
「できるだけ高いトーンで
 できるだけ高いトーンで」
と歌いながら飛び越えて行ったので
感謝で気持ちを込めて奈良を思い出した

そういえば黒塚古墳の近くの池の周りを
「ここやったら落ちる?ここやったら落ちる?」
って走り回りながら、ばあやに話すうちに
本当に池に落ちた母はどうなったかなぁ?
きっとランニング中の兵隊さんたちが
名誉を競って飛び込んだに違いない

ピリリリリ!
携帯が鳴った
兵隊さんからウレシイ知らせだ

母は二郎を身ごもっているらしい
「水吐いても おなか引っ込めへんねん」
と肥満をごまかす時みたいに
母は笑っているようだ

「二郎が生まれるぞ」
横にいる赤鬼に伝えると
「青鬼なんて偽善者だ」
と言ってまた泣いてしまった

無理もない・・・
筆箱の中身を全部そろえられたんだから
飛べるわけがないのだ

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