異子。亜子。/手乗川文鳥
 
あなたはわたしに「ななし」と名付けた 
それ以来わたしは薄い皮膜を漂っている小さな虫。 
光らない星、開かない窓、結ばれない紐、濡れない傘、 
ない。ない。ない。ということでしか 
語り得ない(ない。) 
対象はいつも 
椅子に座っていて姿が見えない(ない!) 
臙脂色のビロードの椅子、へと、語りかけて、 
ビロードの表面は鮮やかに色を失う、その織目にわたしは海を見つけた、 
海底の砂にまみれる、頑なな貝を見つけた、 
そして貝は小さく気泡を洩らしながら、砂に隠れてしまった、 
とじ合わせた中に、わたしの本当の名前があった/指先が触れる/ 
ビロードの起毛、
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