ゆるやかな生活/豊島ケイトウ
いてくる。
「ぼく、これからどんどん仕事を覚えていくよ」
「……ありがとう」
わたしは素直に答えた。涙をこらえきれない。祐輔を見ていると、生きることの意味があいまいになる――そう思って自分を慰めていたが、実のところ、わたしは甘えていただけだ。目をそらしていただけなのだ。祐輔は逃げずにしっかりと現実と向き合い、わたしのことも見てくれているというのに。
わたしは振り返り、祐輔の、少し生え際の薄くなったおでこに、キスをした。
若年性アルツハイマー病――それが、わたしの夫の病名である。
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