浅草物語 /服部 剛
 
ある日僕は、偽善をした。 
ちらほらと雪のぱらつく、浅草で。 

  * 

ふたりの女を、愛しそうになっていた。 
ふたつのあげまんを、雷門の近くで買った。 

  * 

地下鉄へ潜(もぐ)る階段に 
家の無い爺ちゃんが震えながら 
身を縮めて、眠ってた。 

数日前にマザーテレサの映画を観た僕は 
カルカッタの路上に寝そべる痩せこけた人の 
傍らに坐り 
手を握る聖女の姿が 
記憶のスクリーンに甦り 

道を引き返し 
あげまんじゅうの店に立つ 
金髪のおばちゃんに 
「浅草人のハートが好きです」と握手して 
もう1個買ったあげまんを紙袋
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