星の航海術(スター・ナヴィゲーション)/楽恵
 

掲げた手首に引かれた風コンパスと炎の赤道は喉を掻き切り流れ出す椰子の黄色い核が浮き沈みする痕では半人半霊の拝む太陽の焦点も焦げている瞳孔と溶けるチョコレートの肌に押し寄せる波濤そして火傷するほど疾走する尖った舳先にミクロネシアの熱い鳥が羽ばたき覗き込む波根は躍動し暴れ狂うクロ髪・アカ髪をおさえて水の母胎はあまりに気の遠すぎて青強く脈打っている深淵……カヌーよ 

私をみちびいて欲しいどこまでも未だ国境なく国旗ない帆にうけて偏西風を絡みとりスピードを増しながら調子の鐘が鳴り響く血が噴出す汗を拭いながら櫂を漕ぐ影揺れる腕(かいな)を広げた水平線の向こうに白い巨神が横たわる世界の始原をまだ憶えて
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