蛇は死ぬ直前に皮を脱ぎ捨て生き返る/楽恵
 

ずっと昔、夜、天から水が…… 


……記の底に溢れている 憶
地名を襲う大洪水
聖穢なく
隆起しながら鼻筋を形成していく
雨の島
渇きながら灼熱を求めていた
亜種、獣
めくられることのない滅びた言葉
青くうす汚れた紙
幼い兄妹の足跡を舐め誘拐する
杜の肉は繁る
滴る血の匂を追いかけていく
よみがえれ地霊……
 すきとおっていく
        天


につかわされた時、人間から先に水を浴びるということにした。ところが人間は遅れてしまい、蛇が先を越して水を浴びてしまったそうだ。このために人間は仕方なしに手と足を洗ったということだ。そのために爪がすっかり剥がれてしまい、そればかりか……。


……暗礁に乗りあげてしまった
これほど永く生きてしまったならもはや人でない
醜い
蛇である


 蛇は、死ぬ直前に皮を脱ぎ捨てて、生き返る。







* ニコライ・A・ネフスキー『宮古のフォークロア』より引用箇所あり。ネフスキーが採集した伝「大洪水」の記録。原文は一部が失われている。








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