爬龍船/楽恵
 

ハーリーガニ が高らかに鳴り響けば
雨が上がったばかりの濡れた砂利道を
南風にまぎれてサトウキビの匂いをまとう
誰もが浜辺に集まって来る
普段は森の奥に潜んでいる精霊や屋敷神さえ
肩を組み船(サバニ)を担いで連れ立って
蟹のように一斉に浜を下り
海へ海へとやって来る
白衣の聖なる巫女が御願(うがん)して
世(ゆ)果報(がふ)を呼び寄せる
舳先に龍の目玉をぐるり描いた船を漕ぎ入れ
さあ、海人(ウミンチュ)の男たちが船いくさを開始する
櫂(エーク)が産声をあげカニウチ が叫ぶ
数艘の船が沖までまっすぐ、我先に競い漕ぐ
白波の羽根を生やして波間を飛び
見送る者の熱狂と喧
[次のページ]
戻る   Point(8)